コーシー・リーマンの方程式とは
複素関数 $f(z)$ が正則関数であるための必要十分条件を示す方程式。
$z = x+iy\ (x,y \in \mathbb{R})$ として、$f(z)$ がある実数関数 $u(x,y),\ v(x,y)$ を用いて
と書ける時、コーシー・リーマンの方程式は
\[\begin{cases} \cfrac{\partial u(x,y)}{\partial x} = \cfrac{\partial v(x,y)}{\partial y} \\ \cfrac{\partial u(x,y)}{\partial y} = - \cfrac{\partial v(x,y)}{\partial x} \end{cases}\]- 点 $z=z_0$ においてこの方程式が成り立てば、$f(z)$ は $z=z_0$ で 微分可能
- 点 $z=z_0$ とその近傍においてこの方程式が成り立てば、$f(z)$ は $z=z_0$ で 正則
例
例1:任意の点で正則
$f(z) = az^2+bz+c$
$z=x+iy$ を代入して、
\[\begin{eqnarray} f(z) &=& a(x+iy)^2 + b(x+iy) + c \\ &=& (ax^2-ay^2 + bx + c) + i(2axy + by) \end{eqnarray}\]よって
\[\begin{cases} u(x,y) &=& ax^2-ay^2 + bx + c \\ v(x,y) &=& 2axy + by \end{cases}\]偏微分を計算すると、
\[\begin{eqnarray} \cfrac{\partial u}{\partial x} &=& 2ax + b \\ \cfrac{\partial u}{\partial y} &=& -2ay \\ \cfrac{\partial v}{\partial x} &=& 2ay \\ \cfrac{\partial v}{\partial y} &=& 2ax + b \end{eqnarray}\]任意の $z$ に関してコーシー・リーマンの方程式が成り立つので、$f(z)$ は複素空間全体で正則。
例2:特異点が存在
$f(z) = \cfrac{1}{z}$
$z=x+iy$ を代入して、
\[\begin{eqnarray} f(z) &=& \cfrac{1}{x+iy} \\ &=& \cfrac{x-iy}{x^2+y^2} \\ &=& \cfrac{x}{x^2+y^2} + i\cfrac{-y}{x^2+y^2} \end{eqnarray}\]よって
\[\begin{cases} u(x,y) &=& \cfrac{x}{x^2+y^2} \\ v(x,y) &=& \cfrac{-y}{x^2+y^2} \end{cases}\]偏微分を計算すると、
\[\begin{eqnarray} \cfrac{\partial u}{\partial x} &=& \cfrac{1\cdot(x^2+y^2)-x\cdot2x}{(x^2+y^2)^2} = \cfrac{y^2-x^2}{(x^2+y^2)^2} \\ \cfrac{\partial u}{\partial y} &=& \cfrac{-2y \cdot x}{(x^2+y^2)^2} = \cfrac{-2xy}{(x^2+y^2)^2} \\ \cfrac{\partial v}{\partial x} &=& \cfrac{-2x \cdot (-y)}{(x^2+y^2)^2} = \cfrac{2xy}{(x^2+y^2)^2} \\ \cfrac{\partial v}{\partial y} &=& \cfrac{-1\cdot(x^2+y^2)-(-y)\cdot 2y}{(x^2+y^2)^2} = \cfrac{y^2-x^2}{(x^2+y^2)^2} \end{eqnarray}\]$x=y=0$ すなわち $z=0$ においては偏微分が発散するが、それ以外の点では偏微分を計算でき、コーシー・リーマンの方程式も成り立つ。
したがって、特異点 $z=0$ を除く任意の領域で $f(z)$ は正則。
例3:特定の点でのみコーシー・リーマンの方程式が成り立つ
$f(z) = \vert z \vert^2$
$z=x+iy$ を代入して、
\[\begin{eqnarray} f(z) &=& x^2 + y^2 \end{eqnarray}\]よって
\[\begin{cases} u(x,y) &=& x^2+y^2 \\ v(x,y) &=& 0 \end{cases}\]偏微分を計算すると、
\[\begin{eqnarray} \cfrac{\partial u}{\partial x} &=& 2x \\ \cfrac{\partial u}{\partial y} &=& 2y \\ \cfrac{\partial v}{\partial x} &=& 0 \\ \cfrac{\partial v}{\partial y} &=& 0 \end{eqnarray}\]よって、$x=y=0$ すなわち $z=0$ でのみコーシー・リーマンの方程式が成り立つ。
すなわち、$f(z)$ は $z=0$ でのみ微分可能であるが、この点のどんな近傍でも微分できないため、正則ではない。
例4:コーシー・リーマンの方程式が成り立たない
$f(z) = z - \bar{z}$
ただし、$\bar{z}$ は $z$ の共役複素数
$z=x+iy$ を代入して、
\[f(z) = (x+iy) - (x-iy) = 2iy\]よって
\[\begin{cases} u(x,y) &=& 0 \\ v(x,y) &=& 2y \end{cases}\]偏微分を計算すると、
\[\begin{eqnarray} \cfrac{\partial u}{\partial x} &=& 0 \\ \cfrac{\partial u}{\partial y} &=& 0 \\ \cfrac{\partial v}{\partial x} &=& 0 \\ \cfrac{\partial v}{\partial y} &=& 2 \end{eqnarray}\]よってどの点でもコーシー・リーマンの方程式を満たさないため、$f(z)$ はどんな領域でも正則ではない。