イントロダクション

本書の3つのアイデア

  1. マネジメントに対するアウトプット志向性
    • 皆が何らかの意味で生産的な活動を行っている
    • なので、系統的な管理方法が見出せる
  2. 人間活動は大抵、個人というよりチームで追求される
    • 「マネージャーのアウトプットとは、その直後の監督下にある、または影響下にある組織体のアウトプットである」
  3. チームは、そのメンバーである個人が最高の業務遂行活動を行うときに最も良く機能し、その業績を高める

第1部 朝食工場

1章 生産の基本

思考実験:3分間ゆで卵

  • ウェイターの立場
  • 以下の3つをできたての熱いうちに提供
    • 3分ゆで卵
    • コーヒー
    • トースト

この課題は生産の基本的要件を含む:

  • 時間
    • 一定時間内に
  • 品質
    • 熱いままで
  • コスト
    • 安く

制約的(リミッティング)ステップ:取り掛かる作業の全体的な形を決める中心的なステップ(一番時間がかかるゆで卵が該当)

相殺(オフセット):最も重要不可欠なステップ(ゆで卵)を中心に流れを計画し、他のステップを処理時間に応じてずらすこと

生産的活動には3つの基本作業がある:

  • プロセス(加工・処理)
    • 原材料を変化させる
    • ex. 卵をゆでる
  • アセンブリー(組み立て・まとめ上げ)
    • 部分部分を集めてひとつの新しいまとまりのあるものにする
    • ex. ゆで卵・トースト・コーヒーをまとめて朝食とする
  • テスト
    • ex. コーヒーに湯気が立っているか、トーストがこんがり焼けているか

付加価値をつけること

  • 物はプロセスを通って動くに従って価値が増していく
    • 生卵 < ゆで卵
    • 初めて出会った学生 < 学卒会社訪問者 < 内定者
  • できるだけ「価値が最低」の段階で問題を発見・解決すべき

2章 朝食工場を動かす

インディケーターこそ大事なカギ

  • 状況を測定する指標 = インディケーター が必要
    • 現状把握・能率改善
    • 個人あるいは目標を示す
    • 隠れた問題が表に出る前に気づくことも
  • インディケーターとなりうるものは無数にあるので、目的にあったものを適切に選択する必要がある
  • 良いインディケーターとは
    1. 「活動」ではなく「アウトプット」を測定するもの
      • 【x】営業の訪問件数【o】取ってきた注文件数
    2. 「計算のできる」もの
  • インディケーターによる将来予測
    1. 傾向インディケーター:アウトプットを時間ごとに測定したもの
      • 過去の事実の延長線上のこととして将来を予測できる
    2. スタッガーチャート

品質の保証

  • 受け入れ検査あるいは入荷原材料検査:価値が最低の時点で行う検査。原材料の検査など
  • 仕掛かり検査:中間地点で行われる検査
  • 最終検査あるいは出荷時品質検査

入荷検査で不合格

  • 業者に返品するか、仕様を断念してなんとか使用するか。後者の方がコストは低く済むが不良品になるリスクは高まる
  • 欠陥原料によって「信頼性の問題」を引き起こすような場合は、不良品を絶対に通してはならない

検査の実施にはコストがかかるので、品質向上と生産プロセス効率化のトレードオフ

  • 遮断式検査
    • 全ての素材は検査に通るまで遮断機に止められ、不合格なら前の段階へ戻され手直し or スクラップ
  • モニタリングステップ
    • 素材からいくつかのサンプルを取り、素材の不合格率を随時監視して、生産ラインを止めるかどうかの判断をする
      →そこまで大きな問題になりそうにないならモニタリングの方が良い
  • 可変式検査
    • 数週間問題が起こらなければ検査頻度を下げ、問題が起こり始めれば戻す

生産性を高めるために

生産性 = アウトプット / 必要とした労働力

生産性を上げる方法:

  • 早くやる
  • 遂行する仕事の「性質」を変える…活動に対するアウトプットの率を上げる。一所懸命ではなく賢くやる

てこ作用(レバレッジ):同じ作業量に対するアウトプットの割合。効率。

レバレッジを上げる方法:

  • 一つは機械によるオートメーション
  • 作業簡素化:全ての作業ステップを省略せず記入した生産のフローチャートを作り、削っていく
    →経験的に、最初の簡素化で大体30〜50%ステップ数を減らせる
    →案外、大した理由なく存在するステップが多い。伝統的にそうだから、とか。

ソフトプロフェッション:事務管理職、知的専門職、経営管理職など。

ソフトプロフェッションの仕事においては、活動とアウトプットの区別をはっきりつけるのが難しい

第2部 マネジメントはチーム・ゲームである

3章 経営管理者のレバレッジ

マネージャーのアウトプット = 自分の組織のアウトプット + 自分の影響が及ぶ隣接諸組織のアウトプット

マネージャーの作業

  • 情報収集
    • 全てのマネジメント活動の基礎
    • ちょっとした会話…文字よりもはるかに早く耳に届くため有用
  • レポート
    • 見逃しがないようセーフティネットの役割を果たす
    • また、口頭より厳密にならざるを得ないので、説明者がトラブル箇所を確認・処理を強制されて自己規律の訓練になる
  • 情報提供
    • 事実や知識だけでなく、目標・優先事項・重点事項を伝えて、部下が「どういう方針で意思決定すれば良いのか?」分かるようにする
      →権限委譲の成功のカギ
  • 意思決定
    • 2種類の意思決定がある
      1. 前向きの決定…大型支出の許可など
      2. 大きくなりつつある問題や危機に対する決定…品質管理問題のような技術的なものか、退職希望者の慰留のような人事に関するもの
  • ナッジング
    • 指示や命令のような明確な意思決定ではなく、提案やコメントなど、望ましい方向に進ませようとする活動
  • 役割モデル
    • 言葉だけでは伝わりにくい、マネージャーとしての価値観や行動規範を目に見える行動によって伝達すること

これらマネージャーの活動を提供するものは、ミーティングなど人と顔を合わせること以外にない。

経営管理活動のテコ作用

  • マネージャーのレバレッジを高める方法:1人のマネージャーが大勢の人に影響を与える
    • グループへの知識や価値観の伝達など
      • ある人の長期間の活動に、マネージャーの短いながら的を射た言葉や行動が影響を与える
    • 人事考課など
      • ユニークで貴重な知識や情報を持つ個人によって大きなグループの仕事が影響される
  • 決定をしない = ネガティブな決定
  • 余計な干渉 = 部下が自分自身の問題であっても積極性を示さず、上司に任せるようになる

  • マネージャーの時間の価値には上下がある
    • 権限委譲が大切
    • 委譲したなら最後までトコトンフォローすること
  • 誰でも「自分でやるのが好きだから、本当のところは人に任せたくない」何かが必ずある
    • 手放さないと意識的に決めているなら良い
    • が、心にもない権限委譲をしてもマイナスのレバレッジにしかならない
  • 干渉やお節介ではなく、委譲した仕事が期待通りに進行しているかの確認(モニタリング)は責任をもって実施する
    • 品質管理の場合と同じく、プロセスの中の付加価値が低い段階でモニタリングを行う
      • ex. レポート作成では、完成版ではなく下書きの段階で根本的なズレがないか確認する
    • モニタリングの頻度は、その部下の「タスク習熟度」に応じて減らしていく

マネージャーの活動速度を速める

生産の原則が応用できる

  • 時間的な制約が強いリミッティング・ステップが何かを把握
    • 類似したタスクをまとめてバッチ処理
    • ex. 読むべきレポートが大量にある場合、大きなまとまり時間を取ってまとめて読むことで精神的な準備期間を最大活用(頭の切り替えのオーバーヘッドを減らす?)
  • カレンダーを生産計画に利用
    • 処理能力以上の仕事に対しては最初から「ノー」と言う
  • スラック(たるみ)
    • スケジューリングに多少のゆとりを持たせる
    • 予期しない割り込みを想定する
  • 在庫を持つ
    • 低優先だがやる必要がある、グループの生産性向上のための任意のプロジェクト
    • 在庫がないと、マネージャーは余計な干渉に時間を使ってしまいがち
  • やり方に一貫性を持たせる
    • 確立したアプローチがあるなら同じタスクに対してはそれを用いる
    • ただし、常に「なぜそういうアプローチを取るのか?」批判的に考え続ける

部下は何名が適切か

  • 少なすぎるとレバレッジが小さすぎる
  • 多すぎると動きが取りにくい
  • 監督業務が多いマネージャーの場合、経験則的には6-8が程よい
    • ex. 組織の構造上、工場長の下に技術部長と製造部長の2人しかいない場合、技術部長を工場長が兼務するなどすれば管理する部下の人数を調整できる
  • 不規則に生じる割り込みへの対応
    • 割り込みの種類によって「標準的対応策」を用意しておく
    • 割り込み要素をまとめておき、1on1 やスタッフミーティングでまとめて処理する

4章 ミーティング

大別して、プロセス中心ミッション中心 の2種類がある

プロセス中心のミーティング

知識の共有、情報交換の場。

定期的に行う。

  • 1on1
    • 部下が主役。議題を決め、アウトラインを作成するのは部下
    • 部下がやっていることや抱えている心配事などについて相談する機会
    • 工夫
      • メモを取る。話した内容を論理的に消化する助けになる
      • 「保留」ファイルを作り、「重要だが緊急でないもの」を次回のミーティングで討議するよう書き溜めておく
  • スタッフミーティング
    • 監督者と部下全員が参加するミーティング
    • 話す内容は、3人以上に関係することであれば何でも良い
    • 2人だけに影響する話になってきたら中断させ、その話は別の時間にするよう促す
    • 監督者の役割
      • リーダー、観察者、進行係、質問者、意思決定者
      • 自由討論を阻害してしまうため、講師役にはならないように注意
  • 業務検討会
    • 普段相互に話し合う機会のない人たちのための意見交換の場
    • 上司のそのまた上司や他部署の同僚に対する、仕事内容のプレゼンテーションも含む
    • メリット - 若手は上級マネージャーの意見が聞ける - 上級者は現場に近いところの詳しい話が聞ける

ミッション中心のミーティング

具体的な問題の解決を目的とする、主に意思決定の場。

特別な目的のために随時開かれる。

  • 司会者の責任が大きい
    • 時間内に一定の意思決定に到達するべく、事前に会議の目標をはっきり理解しておく必要がある
  • 主催ではなく呼ばれて参加する場合でも、そのミーティング自体が必要なのか、そこに自分が参加する必要があるのか自問することが大事
  • 意思決定のためのミーティングでは、6,7人以上になるとスムーズに動かなくなる

5章 決断、決断、また決断

  • 地位に基づくパワー
    • マネージャーの命令系統が詳細に規定された伝統的な業界では、どういう立場の人がどういう意思決定をするのか明確に決まっている
  • 知識に基づくパワー
    • 情報やノウハウを主体とするビジネスにおいては、上級者よりも若手の方が新しい知識を持つことが多い
  • ミドルマネージャーが目を配り、両者が円滑に連携できるようにする

理想的なモデル

  • 自由討論
    • 全ての意見や問題点を受け入れ
  • 明確な意思決定
    • 議論の余地を残さない
  • 完全な支持
    • 「全員の賛成」という意味ではない。人によっては賛成できない意思決定であっても良い

同僚グループ症候群

  • 大抵の人はじぶん1人だけが出しゃばるのを恐れる
  • 何か言うとバカだと周りに思われたりしないか、という恐怖
    • 自分の心にあることを完全に自由には話さず、正しい意思決定を妨げる
  • 意思決定を誤っても提案を否決されても死ぬことはない、というような開き直りが大切

アウトプットへの努力

いくら討論を重ねてもコンセンサスが生み出されない場合は、そのグループの上級マネージャーが自身で意思決定を行うしかない。

→ それまでの議論で事実や見解、意見、判断が出尽くしていれば、偏見や誤認のない意思決定ができるので、悪いことではない

意思決定に際して自問自答すべき6つの質問

  • どのような意思決定をする必要があるのか
  • いつ決めなければならないか
  • 誰が決めるのか
  • 意思決定の前に相談すべき人は誰か
  • 意思決定を承認あるいは否認するのは誰か
  • その意思決定を誰に知らせる必要があるか

6章 計画化(プランニング)

計画の策定はマネージャーにとって日常的なプロセス。

計画策定のプロセス(プランニング・プロセス)

  • ステップ1. 未来の需要を予測
    • 環境を構成する要件の見極め…顧客の期待、自分たちのサービスのやり方や実績、技術の進歩、関係グループの遂行能力や実績
    • これら要件について、現在と未来の2点の差異分析…現在の要求と将来見込まれる要求の差異は?
  • ステップ2. 現状を把握
    • 現在の能力と仕掛かりのプロジェクトをリストアップ
    • 今のまま行けば将来的なアウトプットはどうなるか?
  • ステップ3. 需要の予測とアウトプットの予測を一致させる
    • 計画を調整し、ステップ1,2のギャップを埋める

計画策定のアウトプット

  • アウトプット = 実行すべき一連のタスク一覧
  • 五カ年計画、などを立てたとしても、その期間の最中に計画を見直すことができる
    • 自分が今実行しているのは、現在と次の検討時との間に存在する、計画の一部分のみ。他のことは改めて見直す機会がある
  • プランニング・プロセスには、実務担当のマネージャーが参加すべき

目標による管理

MBO = Management by Objectives、目標管理

  • 目標管理(MBO)が成功するために
    • 私はどこへ行きたいのか(=目標)
    • そこに到達するためには自分のペースをどう決めるか(マイルストーン、キーリザルト)

→ OKR?

  • 機械的に MBO に依存して業績を評価したり、MBO に沿わないからといって別の機会を捨てたりするべきではない
    • MBO はあくまで、個人がいかに正しく行動するかを判断するための一つのインプット
  • キーリザルトが有効であるためには、具体的な言葉による表現と日付が必要

第3部 チームの中のチーム

7章 朝食工場の全国展開へ

組織が大きくなると、色々な課題が出てくる。

  • 各種の権限や役割の分散・集中
  • 間接費の発生
  • 意思決定のしにくさ

8章 ハイブリッド組織

組織の典型的な形態:

  • 使命中心形態
    • 個々の事業単位が、自らの持つ個々の構成要素全てに責任を持つ
    • 他との絆は強くない
    • 事業所ごとの事情に応じた権限が与えやすい
    • 物事が分断され、非効率を生み出す
  • 機能別編成形態
    • 中央集権化
    • 中央が全ての事業所の責任を持つ
    • 規模の経済の活用、専門知識の蓄積によるレバレッジ増大に有利
    • 概念的には明確だが、技術・製造が本当に顧客が求めるものから乖離しがち
  • ハイブリッド形態
    • 事業単位組織と機能別組織の混合
    • 機能グループ = 社内の下請け業者
    • 会社的な優先順位変更に際して、資源を移行・再分配できる
    • 機能グループのおかげで、各事業単位は自分たちの特定の業務に専念できる

アルフレッド・スローン「経営管理の成否は、集権化と分権化との調和にかかっている」

グローブの法則:共通の事業目的を持つ全ての大組織は、最後にはハイブリッド組織形態に落ち着く

しばしば、限られた資源をめぐり、事業単位間で争いが生じる。

→ これを中央集権的に1箇所で扱うのは重過ぎる

解決の鍵となるのはミドルマネージャー

  • 充分な人数がいる
  • 内部資源を作り出し、それを消費するという問題に最も身近に位置している

9章 二重所属制度

  • 事業単位を統括する事業部長が(自分の詳しくない)技術者を監督するのは難しい
  • だからといって技術部長の下に技術者を置くと、完全な機能別編成形態へ向かう
    → 事業部長、技術部長の両方に所属させる

10章 コントロール方式

行動をコントロールする3つの方法:

  • 自由市場原理
    • ex. なるべく安く要求に合う商品を買いたい
    • マネジメントが果たす役割はない
  • 契約上の義務
    • ex. 法律や契約による制約
    • マネジメントが果たす役割:規則の設定や修正、その遵守についての監視、履行と実績の評価と改善
  • 文化的価値
    • 個人の利益よりも、個人が属する集団の利益の方が優先される
    • 組織として価値観・目標・手段を全員が共有する必要がある
    • マネジメントが果たす役割:共通した価値観・目標・手段の開発・育成
      • 価値観・目標・手段の明示
      • 模範を行動で示す

場合によって利用すべき適切なコントロール方式は異なる

  • 2つの判断軸
    • 個人の動機付け:自分個人の利益になるのか、グループ共通の利益になるのか
    • CUA-factor:職場環境。仕事内容の複雑さ・不確定さ・不明確さ(complexity, uncertainty, ambiguity)
  • 適したコントロール方式
\ 低 CUA 高 CUA
個人利益 市場原理 (※)
グループ利益 契約義務 文化的価値

(※)コントロール不能。沈没する船の上で自分だけが助かろうとするような混乱が生じるのみ

第4部 選手たち

11章 スポーツとの対比

動機づけと欲求

人が仕事をしない理由は2つだけ

  • 能力がない
  • 意欲がない

見分ける質問:「生活がかかっているとすればその仕事ができるか?」

これらを解決するための方法 = 訓練と動機付け

本節の主題は動機付けについて。

  • モチベーションはその人間の内部から発する
    → 外から「やる気を起こさせる」のは無理
    → マネージャーにできること:もともと動機付けがある人が活躍できる環境を整えること
  • 望むアウトプットはあくまで遂行業績の向上。「やる気が起きた」はせいぜいモチベーションを測定するための一つの指標でしかない

マズローの理論:モチベーションは欲求から生じる。欲求の中でも強いものがモチベーションを決定する

段階 欲求 説明
1 生理的欲求 生活必需品のような、金銭でまかなえるもの
2 安全・安定への欲求 生理的欲求が脅かされない安心(医療保険など)
3 親和・帰属への欲求 何かしら共通の性質を持つグループへの帰属
4 尊敬・承認への欲求 人から認められたい
5 自己実現への欲求 「なりうるものには、ならなければならない」という個人の自覚
この欲求だけは、満たされて消えるということがなく、より高水準へと人を推し進めていく

自己実現を推し進める2つの力と、それを助成するマネジメント

  • 自身の能力向上への欲求
    • 目標を高く設定(ex. 頑張っても達成できるかは五分五分)
  • 達成意欲
    • アウトプットを評価・強調する環境づくり(ex. 良い研究をする人 < 具体的なアウトプットを出す人)

金銭およびタスク関連のフィードバック

絶対額と相対額:

本人にとって重要なもの 支配的な欲求
昇給の「絶対額」 生理的欲求や安全・安定への欲求
昇給の「相対額」(他人との比較) 自己実現への欲求
  • 低階層の欲求においては金銭は重要だが、ある程度満たされるとモチベーションの役割を果たさない
  • 自己実現を充分発揮しているような人にとっては、金銭は「いくら稼げるか」という達成度の尺度

自己実現段階に達すると、達成度を測る尺度が必要になる

  • 業績を測る何かしらのインディケーター
  • 上司から受ける人事考課(後述)

不安

  • 失敗の不安
    • 低階層の欲求における不安
    • 良い刺激ともなるし、慎重すぎる姿勢を生むことにもなり得る
  • 自分を満足させられないのではないかという不安
    • 高階層の欲求における不安

スポーツとの対比

  • マネージャーがやるべきこと = 各人を 訓練 し、動機付け を高階層まで引き上げること
    • 自己実現段階に達すれば、モチベーションは自給自足で無限に湧いてくる
  • 文化的な偏見
    • 仕事に熱心に取り組む人を病人のようにみなす
    • ex. スポーツは善で面白いが、仕事は単調で必要悪で楽しくない
      →仕事の中に競争などスポーツの特徴を持ち込むと良い
  • マネージャーはスポーツで言うコーチ
    • チームの成功を個人の手柄とは考えない
    • チームに対して厳しく、メンバーから最高の成績を得ようと期待する
      • 自分もかつては良い選手であった

12章 タスク習熟度

  • 「最適なマネジメント」は存在しない
    • マネジメントの効果は、ある種のマネージャーとある種のグループの特定の組み合わせで決まる
  • タスク関連習熟度(TRM)
    • Task Relevant Maturity
    • 達成志向度、教育・訓練・経験の組み合わせ
    • 一般的な有能さとは異なり、同じ人・グループでも仕事が違えば TRM は異なる
  • TRM は、特定状況下で最善なマネジメントスタイルを判断するための基本的な変動要因

部下のタスク習熟度に応じたマネジメント

習熟度 マネジメント
何をいつどのようにやるのか、正確詳細な指示を与える
コミュニケーションや情緒的な支持・激励など、仕事よりも個人としての部下に注意を払う方向へ
マネージャーの関与を最小限に。
重要なこと:
・部下との間で目標に関して合意しておく
・部下の仕事を綿密にモニターしておく
  • 仕事を委任するために必要なこと
    • 部下との間で価値観を共有
  • 「間違いを経験しながら学ばせる」の問題点
    • 部下の授業料を顧客に払わせていること

良いマネージャーにやるのは容易ではない

  • 部下のタスク習熟度を判定するのは難しい
  • マネージャーがやりがちな失敗
    • 個人的な好みに走り、習熟度に合わない不適切なマネジメントスタイルを選択する
    • 自分のコミュニケーション能力、権限委譲の度合いを周囲が思うよりも高く見積もる
  • 上司と部下の友情は良いものか?
    • 「自分は友人に対して厳しい考課を実施できるか?」による
    • 個人的な関係が仕事関係を強化することも
    • 当然、友人関係と仕事上の関係を混同してはならない

13章 人事考課

  • 人事考課 = 管理者が部下にフィードバックするための最重要な方式
  • 考課の目的:部下の業績を改善すること
    • 技能水準の向上…欠けている技能の矯正
    • モチベーションの向上

業績の査定

  • 厳密に客観的な評価を下すのは困難
    • 期間内にアウトプットが出る活動ばかりとは限らない
    • しかし、本当に客観的に測れるのはアウトプットだけ
    • よって、主観による判断が混じることは避けがたい
  • 指針
    • 部下に期待することが何か明確にする
    • 部下が期待通りに仕事をしたかを判断する
  • 避けるべき落とし穴…「可能性の罠」
    • 可能性 != 実質
    • 評価すべきは業績
      • 能力が高いことだけでは評価の対象とならない
  • 昇進した人 = マネージャーの価値観を反映する役割モデル

査定の内容を伝える:意識すべき3つの L

  • Level:相手のところまで降りていって率直に
  • Listen:相手の話をよく聞き
    • 自分の言いたいことが相手に伝わるように全感覚を使い、相手が理解したという満足を得られるまで根気よく話し続ける
  • Leave yourself out:自分を圏外に置いて客観的に見ること
    • 自分自身の不安感や罪悪感などの感情を抑制し、考課を伝える仕事に影響させないようにする

査定の内容を伝える:考課の3つのタイプ

1. 肯定的・否定的両方の内容を含む

  • 上辺だけの意見や決まり文句、無関係な観察事項は余計なだけ
  • 人間には、一度に吸収できるメッセージに限界がある→述べることは少ないほどよい
  • 重要なところに焦点を当てるためには
    1. 進捗報告、目標対実績、1on1ミーティングのメモなどの資料にさっと目を通す
    2. 部下に関するあらゆることを紙に書き込む
    3. 列記した項目感の関係を見つけ出す
      →同じような事柄を言い換えただけのようなものや、部下の強み・弱みの根源のようなものが見つかるはず(= 部下へのメッセージ)
    4. 自問自答:伝えようとしているメッセージを部下が「覚えきれるか」
      →あまり重要でないものを削除

2. 問題社員

  • 問題解決の諸段階:
段階 内容
1 問題自体を無視する
2 問題を否定する
3 他人を非難する
4 責任を取る(ここから、問題が自分事になる)
5 解決策を見つける
  • 「他人を非難する」→「責任を取る」の移行には感情的な壁があるため、ここを乗り越えるのが難しい。他の移行は知的なプロセスなので比較的容易
  • 部下を責任引き受けの段階へ進めるのは考課者の仕事
  • 最後の段階で起こる部下の状態は3つ:
    1. 査定・改善案を受け入れ、実行を約束する:「その通りだと思うので改善します」
    2. 査定には異議を唱えるが、改善案は受け入れる:「納得はできませんがやります」
    3. 査定に異議を唱え、改善案の実行も約束しない:「納得ができないのでやりません」
  • 1に至るよう努力すべきだが、それが難しいのであれば2でも満足すべき
    →同意に至らなくとも「呑める」のであれば仕事は進む

3. エース社員

  • 優秀な社員は通常、仕事を負担する割合が際立って大きい
    優秀な社員の更なる改善はレバレッジが大きい
  • ある人の業績が素晴らしい水準にあっても、なおかつ改善の余地は「いつも」あると心得るべき

14章 2つの難しい仕事

マネージャーにとって難しい仕事:採用面接と退職引き止め

面接

  • 時間の80%は、面接者にとっての関心事について志望者に話をさせるべき
  • くどい話や脱線は遮り軌道修正する
  • 入手すべき情報の4カテゴリ
カテゴリ 説明
技術・技能 業務に関する技術的な水準
実績 知っているだけでなく、その知識を使ってどのような仕事を達成してきたか。また、どのような失敗をしたか
技術と実績の差異 失敗から何を学んだか、今の立場で直面している問題
仕事上の価値観 なぜ新しい仕事をこなせると思うのか、これまで経験した中で最も重要だったプロジェクトはなにか
  • 有効な手法
    • 「技術的に言うとどのくらいのレベルですか」のような直接的な質問
    • 仕事上の状況を仮定しての演習
  • 考課の場合とは異なり、志望者の「可能性」を判断しなければならない
  • どれだけ注意深く面接しても、面接の確実な成功を保証することはできない

退職引き止め

  • 給与や役得に関する動機ではなく、「自分の仕事ぶりが認められていない」と思い込んでいる人の話
    →マネージャーとしては失敗
  • 「退職の申し出を受けた際の最初の反応が絶対にすべてその後を左右する」
    • 今やっていることはすべて即刻中止し、最優先で話を聞くべき
      →「上司にとって自分のことなど大したことではないんだ」と思わせない
    • 一切議論も説教もせず、辞める理由を尋ねる。質問して深掘りする
      →本当の問題点がわかってくるかもしれない
    • この時点で決心を変えさせようとしてはならない
  • 他部署への異動も含め、「会社にとっての」解決案を考える

15章 タスク関連フィードバックとしての報酬

  • ピーターの法則
    • 誰を昇進させるかという判断は、昇進後の地位に必要な能力ではなく、現在の地位において発揮した能力によってなされる
    • そのため、管理職は必ず無能となる地位まで昇進する
  • 能力以上の職位に昇進してしまい、長い間平均以下の仕事しかできない場合がある
    • 解決策はリサイクルする(元の地位に戻す)こと
    • これはその人物の失敗と見られがちなため非常に困難だが、実際のところは、その人物を昇進させた側の判断の失敗
    • 経営側は、その人物ができる仕事に戻すための手立てを正直に慎重に考えるべき

16章 なぜ教育訓練が上司の仕事なのか

  • 訓練が不十分な従業員は、(決して悪意によらず)非能率、余計な費用、顧客の不満、危険な状況を生む
  • よその訓練専門家ではなく、マネージャーが訓練すべき
    • 訓練がその効果を発揮するためには、訓練が実際の仕事に密接に結びついていなければならない
    • 外部委託した訓練の場合、会社の方式にマッチしないケースがよくある
  • 区別すべき2つの訓練(タスクの中身や規模が異なる)
    • 新規従業員訓練
    • 新技能訓練
  • 具体的に何をすべきか
    1. 教えておくべきと感じる事柄のリストアップ
    2. 各事柄を実際に訓練するのに役立つような教材、教えることができる人を調べる(在庫調べ)
    3. リストの優先度付け
  • はじめてのコースを教えることは、一種の捨て金として考えるべき
    • 2回目以降の改善に活かす
    • 最初の対象者を比較的知識があって混乱しない人達にすれば、その人達との相互のやり取りや批評が改善の助けになる
    • 必ず、コースの後には参加者から匿名の批評をしてもらう(全員を満足させることは不可能であると割り切る)