行列の階数 (rank) とは

行列 $A$ の rank については、複数の同値な定義が存在する。

  1. $A$ の列ベクトルで、線形独立なものの最大数
  2. $A$ の行ベクトルで、線形独立なものの最大数
  3. $A$ を基本変形して得られる階段行列 $B$ について、行ベクトルのうちゼロベクトルでないものの個数
  4. $A$ による線形写像の変換先の空間の次元

周辺用語

  • 退化次数・非退化
    • 行列 $A$ の線形変換により、$n$ 次元ベクトル空間 $V$ が $r$ 次元ベクトル空間 $W$ に射影されるとき、$\mathrm{rank}\ A = r$
    • $r \lt n$ であるとき、行列により空間が「つぶれた」と解釈することができる
      • この線形変換で減ってしまった次元数 $n-r$ を 退化次数 と呼び、$\mathrm{null}\ A$ のように表す
    • $r = n$ であるとき、空間はつぶれていないので、$A$ による線形変換は 非退化 であるという
  • 次元定理
    • 行列 $A$ による線形変換 $f: V \to W$ について、$\mathrm{dim}\ V = \mathrm{rank}\ A + \mathrm{null}\ A$
      • $\mathrm{dim}\ V$:空間 $V$ の次元
    • rank の4番目の定義から明らか

図形的な意味

前述の4番目の定義より、rank が $r$ の行列 $A$ による線形写像の変換先の空間は $r$ 次元となる。
以下に具体例を示す。

cf. 描画に使った Python コード

例1:rank 2の2x2行列

2次元から2次元への変換。

\[A = \begin{pmatrix} 0.5 & 1.5 \\ 1 & -1 \end{pmatrix}\] \[\begin{eqnarray} \mathrm{rank}\ A &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} 0.5 & 1.5 \\ 1 & -1 \end{pmatrix} \\ &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} 0.5 & 1.5 \\ 0 & -4 \end{pmatrix} \\ &=& 2 \end{eqnarray}\]

平面 → 平面:

Figure_1

例2:rank 1の2x2行列

2次元から1次元への変換。

\[A = \begin{pmatrix} 1 & -0.5 \\ -2 & 1 \end{pmatrix}\] \[\begin{eqnarray} \mathrm{rank}\ A &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} 1 & -0.5 \\ -2 & 1 \end{pmatrix} \\ &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} 1 & -0.5 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} \\ &=& 1 \end{eqnarray}\]

平面 → 直線: Figure_2

例3:rank 2の3x2行列

2次元から2次元への変換。
※ $xy$ 座標系から $xyz$ 座標系への変換なので3次元への変換と勘違いしそうだが、変換先の空間は3次元空間の平面になる

\[A = \begin{pmatrix} -0.1 & 0.9 \\ 1 & 1.5 \\ 1 & -0.6 \end{pmatrix}\] \[\begin{eqnarray} \mathrm{rank}\ A &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} -0.1 & 0.9 \\ 1 & 1.5 \\ 1 & -0.6 \end{pmatrix} \\ &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} -0.1 & 0.9 \\ 0 & 10.5 \\ 0 & 8.4 \end{pmatrix} \\ &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} -0.1 & 0.9 \\ 0 & 10.5 \\ 0 & 0 \end{pmatrix} \\ &=& 2 \end{eqnarray}\]

$xy$ 空間の平面 → $xyz$ 空間の平面:

Figure_3

例4:rank 3の3x3行列

3次元から3次元への変換。

\[A = \begin{pmatrix} 0.5 & 1 & 0 \\ -0.6 & 0.9 & 0.3 \\ 1 & 0 & -2 \end{pmatrix}\] \[\begin{eqnarray} \mathrm{rank}\ A &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} 0.5 & 1 & 0 \\ -0.6 & 0.9 & 0.3 \\ 1 & 0 & -2 \end{pmatrix} \\ &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} 0.5 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & -2 \\ -0.6 & 0.9 & 0.3 \end{pmatrix} \\ &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} 0.5 & 1 & 0 \\ 0 & -2 & -2 \\ 0 & 2.1 & 0.3 \end{pmatrix} \\ &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} 0.5 & 1 & 0 \\ 0 & -2 & -2 \\ 0 & 0 & -1.8 \end{pmatrix} \\ &=& 3 \end{eqnarray}\]

立体 → 立体:

Figure_4

例5:rank 2の3x3行列

3次元から2次元への変換。

\[A = \begin{pmatrix} -0.5 & 0 & 1 \\ -1 & 1.5 & 0.5 \\ 0 & 1.5 & -1.5 \end{pmatrix}\] \[\begin{eqnarray} \mathrm{rank}\ A &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} -0.5 & 0 & 1 \\ -1 & 1.5 & 0.5 \\ 0 & 1.5 & -1.5 \end{pmatrix} \\ &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} -0.5 & 0 & 1 \\ 0 & 1.5 & -1.5 \\ 0 & 1.5 & -1.5 \end{pmatrix} \\ &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} -0.5 & 0 & 1 \\ 0 & 1.5 & -1.5 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \\ &=& 2 \end{eqnarray}\]

立体 → 平面:

Figure_5

例6:rank 1の3x3行列

3次元から1次元への変換。

\[A = \begin{pmatrix} -0.5 & 0.3 & 1 \\ 0.5 & -0.3 & -1 \\ 1 & -0.6 & -2 \end{pmatrix}\] \[\begin{eqnarray} \mathrm{rank}\ A &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} -0.5 & 0.3 & 1 \\ 0.5 & -0.3 & -1 \\ 1 & -0.6 & -2 \end{pmatrix} \\ &=& \mathrm{rank} \begin{pmatrix} -0.5 & 0.3 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \\ &=& 1 \end{eqnarray}\]

立体 → 直線:

Figure_6