特異点
複素関数 $f(z)$ が以下を満たすとき,$z=z_0$ は $f(z)$ の 特異点 であるという。
- $z = z_0$ では正則でない
- $z=z_0$ のどんな近傍をとっても,その中の少なくとも1点で正則である
孤立特異点と集積特異点
孤立特異点
近傍に他の特異点が存在しない特異点。
集積特異点
どんなに狭い近傍を考えても、その中に他の特異点が含まれてしまうような特異点。
例として $f(z) = \tan \cfrac{1}{z}$ の特異点の1つである $z=0$ について考える。 $f(z)$ は他にも無限個の特異点
\[\cfrac{1}{z} = \cfrac{\pi}{2},\cfrac{3\pi}{2},\cfrac{5\pi}{2},\cdots\]すなわち
\[z = \cfrac{2}{\pi},\cfrac{2}{3\pi},\cfrac{2}{5\pi},\cdots\]を持つ。
式の通り、この特異点はいくらでも0に近い値が存在するため、$z=0$ のどんな近傍を取っても、$z=0$ 以外の特異点が含まれてしまう。
孤立特異点の種類
その扱いやすさに応じて、以下の3種類に分類される。
除去可能な特異点
定義
特異点 $z=z_0$ のまわりで $f(z)$ をローラン展開したとき、負のべき項が現れないもの。
\[f(z) = a_0 + a_1 (z-z_0) + a_2 (z-z_0)^2 + \cdots\]例
\[f(z) = \cfrac{\sin z}{z}\]を特異点 $z=0$ のまわりでローラン展開すると、$\sin z$ のテイラー展開
\[\sin z = z - \cfrac{z^3}{3!} + \cfrac{z^5}{5!} - \cfrac{z^7}{7!} + \cdots\]より、
\[f(z) = 1 - \cfrac{z^2}{3!} + \cfrac{z^4}{5!} - \cfrac{z^6}{7!} + \cdots\]となり、負のべき項が現れない。
極
定義
特異点 $z=z_0$ のまわりで $f(z)$ をローラン展開したとき、負のべき項が現れるが、無限には続かないもの。
\[\begin{eqnarray} f(z) &=& \sum_{k=1}^m \cfrac{b_k}{(z-z_0)^k} + \sum_{k=0}^\infty a_k(z-z_0)^k \qquad\qquad (b_m \ne 0) \\ &=& \left( \cfrac{b_1}{z-z_0} + \cfrac{b_2}{(z-z_0)^2} + \cdots + \cfrac{b_m}{(z-z_0)^m} \right) + a_0 + a_1 (z-z_0) + a_2 (z-z_0)^2 \cdots \end{eqnarray}\]負のべき数がどこまで続いているか(上の式で言う $m$)を位数と呼び、$z=z_0$ を $m$ 位の極 という。
例
\[f(z) = \cfrac{\sin z}{z^4}\]を特異点 $z=0$ のまわりでローラン展開すると、
\[f(z) = \cfrac{1}{z^3} - \cfrac{1}{3!z} + \cfrac{z}{5!} - \cfrac{z^3}{7!} + \cdots\]よって $z=0$ は $f(z)$ の3位の極。
真性特異点
定義
特異点 $z=z_0$ のまわりで $f(z)$ をローラン展開したとき、無限に続く負のべき項が現れるもの。
\[\begin{eqnarray} f(z) &=& \sum_{k=1}^\infty \cfrac{b_k}{(z-z_0)^k} + \sum_{k=0}^\infty a_k(z-z_0)^k \\ &=& \left( \cfrac{b_1}{z-z_0} + \cfrac{b_2}{(z-z_0)^2} + \cdots \right) + a_0 + a_1 (z-z_0) + a_2 (z-z_0)^2 \cdots \end{eqnarray}\]例
\[f(z) = e^{1/z}\]を特異点 $z=0$ のまわりでローラン展開する。
$e^z$ のテイラー展開の式
で $z$ を $1/z$ におきかえればローラン展開が求まる:
\[f(z) = 1 + \cfrac{1}{z} + \cfrac{1}{2!z^2} + \cfrac{1}{3!z^3} \cdots\]負のべき項が無限に続く式となるので、$z=0$ は $f(z)$ の真性特異点。