母平均の検定

正規分布に従う母集団:両側 t 検定

【問題設定】

  • 前提
    • 母集団が 正規分布 に従う
  • 調べたいこと
    • 注目する統計量がある値と一致するか否か?

理論

母集団が母平均 $\mu$ の正規分布に従うと仮定した時、この母集団から $n$ 件の標本を抽出した標本平均を $\bar{x}$、不偏分散を $s^2$ とすると、統計量

\[t := \cfrac{\bar{x}-\mu}{\sqrt{s^2/n}} \tag{1.1}\]

は自由度 $n-1$ の t 分布に従う。
この $t$ を検定統計量に用いた仮説検定の手法を t 検定 と呼ぶ。

【NOTE】 自然界の多くの分布は正規分布に従うため、母集団が正規分布に従うと仮定することが多い。そのため、t 検定は非常に頻繁に使用される。

次に、有意水準 $\alpha$ のときの両側検定の信頼区間を求める。
t 分布の上側 $\alpha$ 点を $t(\alpha)$ と書けば、t 分布の対称性から $t(1-\alpha) = -t(\alpha)$ が成り立つので、

\[-t(\alpha/2) \le \cfrac{\bar{x}-\mu}{\sqrt{s^2/n}} \le t(\alpha/2) \tag{1.2}\]

が成り立てば良い。これを $\mu$ について解けば、

\[\bar{x} - t(\alpha/2) \sqrt{\cfrac{s^2}{n}} \le \mu \le \bar{x} + t(\alpha/2) \sqrt{\cfrac{s^2}{n}} \tag{1.3}\]

これが母平均 $\mu$ の信頼区間となる。

具体例

ある工場では、寸法が $10.00\ [\mathrm{cm}]$ になるよう設計された部品 A を製造している。
実際に作られた部品からランダムに10個を抽出して寸法 $x_1, \cdots, x_{10}\ [\mathrm{cm}]$ を測定すると、結果が以下のようになった。

10.21, 9.98,  9.93,  10.25, 9.99,
10.08, 10.17, 10.43, 10.19, 10.11

部品 A の実際の寸法が正規分布に従うと仮定する時、有意水準を5%として、この部品の寸法の平均値は $10.00\ \mathrm{cm}$ であると言えるか?

帰無仮説・対立仮説の設定

  • 帰無仮説 $H_0$:部品 A の寸法の平均値 $\mu = 10.00$
  • 対立仮説 $H_1$:部品 A の寸法の平均値 $\mu \ne 10.00$

となる両側検定を行う。

検定統計量の選定

部品 A の寸法は正規分布に従うから、$n=10$ 個の標本から計算した標本平均を $\bar{x}$、不偏分散を $s^2$ として、

\[t := \cfrac{\bar{x}-\mu}{\sqrt{s^2/n}}\]

は自由度 $n-1=9$ の t 分布に従う。

検証したい $\mu$ 以外は既知の値なので、この $t$ を検定検定量として用いる。

棄却域の計算

有意水準 $\alpha = 0.05$ の両側検定であるから、この $t$ が t 分布の下側2.5%点 $t_{0.975}$ と上側2.5%点 $t_{0.025}$ との間にあれば、帰無仮説 $H_0$ は妥当と言える。
自由度9の t 分布表より $t_{0.025} = 2.262,\ t_{0.975} = -t_{0.025} = -2.262$ と求まるので、帰無仮説 $H_0$ の棄却域は

\[t \le -2.262,\ 2.262 \le t\]

検定統計量の計算

\[\bar{x} = \cfrac{1}{10} \sum_{i=1}^{10} x_i = 10.13\] \[s^2 = \cfrac{1}{10-1} \sum_{i=1}^{10} (x_i - \bar{x})^2 = 0.0223\]

であるから、帰無仮説 $\mu=10.00$ が正しいと仮定すると、

\[t = \cfrac{10.13-10.00}{\sqrt{0.0223/10}} \simeq 2.75\]

これは棄却域に含まれるので、帰無仮説 $H_0$ は棄却される。

結論

この工場で製造される部品 A の寸法の平均値が $10.00\ \mathrm{cm}$ であるとは言えない。

正規分布に従う母集団:片側 t 検定

【問題設定】

  • 前提
    • 母集団が 正規分布 に従う
  • 調べたいこと
    • 注目する統計量がある値以上(または以下)であるか?

理論

両側 t 検定に同じ。

具体例

あるノート PC について、100% 充電時から無視用状態での内蔵バッテリーの持ち時間が120時間であると宣伝されている。

実際に製造されたこの製品12台を用いて実験すると、100% 充電時からバッテリーが来れるまでの時間 $x$ は以下のようになった。

113.3, 110.7, 121.7, 103.5,
138.9, 114.8, 119.5, 99.0,
119.1, 126.8, 118.7, 111.9

このノート PC のバッテリー持ち時間が正規分布に従うと仮定する時、有意水準5%として、「このノート PC のバッテリー持ち時間は120時間である」という宣伝文句は妥当と言えるか。

帰無仮説・対立仮説の設定

バッテリー持ち時間が120時間よりも長い場合は問題がないので、

  • 帰無仮説 $H_0$:バッテリー持ち時間の平均値 $\mu = 120.0$(宣伝は妥当)
  • 対立仮説 $H_1$:バッテリー持ち時間の平均値 $\mu \lt 120.0$(宣伝は誇大広告)

となる片側検定を行う。

検定統計量の選定

バッテリー持ち時間は正規分布に従うから、$n=12$ 個の標本から計算した標本平均を $\bar{x}$、不偏分散を $s^2$ として、

\[t := \cfrac{\bar{x}-\mu}{\sqrt{s^2/n}}\]

は自由度 $n-1=11$ の t 分布に従う。

検証したい $\mu$ 以外は既知の値なので、この $t$ を検定検定量として用いる。

棄却域の計算

有意水準 $\alpha = 0.05$ で $\mu$ の上限を対立仮説とする片側検定であるから、この $t$ が t 分布の下側5%点 $t_{0.95}$ 以上の範囲にあれば、帰無仮説 $H_0$ は妥当と言える。

※ $t = (\bar{x}-\mu)/\sqrt{s^2/n}$ なので、$\mu$ の上限値について考える場合、$t$ に関しては下限値を考える必要がある。

自由度11の t 分布表より $t_{0.95} = -t_{0.05} = -1.796$ と求まるので、帰無仮説 $H_0$ の棄却域は

\[t \le -1.796\]

検定統計量の計算

\[\bar{x} = \cfrac{1}{12} \sum_{i=1}^{12} x_i = 116.5\] \[s^2 = \cfrac{1}{12-1} \sum_{i=1}^{12} (x_i - \bar{x})^2 = 109.0\]

であるから、帰無仮説 $\mu=120.0$ が正しいと仮定すると、

\[t = \cfrac{116.5-120.0}{\sqrt{109.0/12}} \simeq -1.16\]

これは棄却域に含まれないので、帰無仮説 $H_0$ は棄却されない。

結論

「このノート PC のバッテリー持ち時間は120時間である」という宣伝文句は誇大広告とは言えない。

ポアソン分布に従う母集団

【問題設定】

  • 前提
    • 母集団が ポアソン分布 に従う
    • 標本数 $n$(集計期間)が十分に大きい
  • 調べたいこと
    • 注目する統計量がある値に一致するか?

理論

1日に起こる事故の件数など、確率変数 $x$ がポアソン分布 $Po(\lambda)$ に従うとき、確率分布関数は

\[f_\lambda(x) = \cfrac{\lambda^x}{x!} e^{-\lambda}\]

で表される。$x$ の期待値・分散は以下の通り。

\[E(x) = \lambda,\quad V(x) = \lambda\]

$x$ の標本を $n$ 件抽出した場合の平均値

\[\bar{x} := \cfrac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_n\]

は、中心極限定理により、$n$ が大きいとき正規分布に従う。

\[\begin{eqnarray} E(\bar{x}) &=& E \left( \cfrac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_n \right) \\ &=& \cfrac{1}{n} \sum_{i=1}^n E(x_n) \\ &=& \cfrac{1}{n} n \lambda = \lambda \end{eqnarray}\] \[\begin{eqnarray} V(\bar{x}) &=& V \left( \cfrac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_n \right) \\ &=& \cfrac{1}{n^2} V \left( \sum_{i=1}^n x_n \right) \\ &=& \cfrac{1}{n^2} \sum_{i=1}^n V(x_n) \\ &=& \cfrac{1}{n^2} n \lambda = \cfrac{\lambda}{n} \end{eqnarray}\]

であるから、

\[\bar{x} \sim N(\lambda, \lambda/n)\]

$\bar{x}$ を標準化して、

\[z := \cfrac{\bar{x}-\lambda}{\sqrt{\lambda/n}} \sim N(0, 1)\]

母平均 $\lambda$ 以外の値は標本から既知なので、標準正規分布に従う $z$ を検定統計量として用いることができる。

具体例

1日の平均来客数が15人のレストランにおいて、宣伝のため雑誌に広告を出した。
雑誌の発売翌日からの30日間で、1日の平均来客数は17.2人になった。
有意水準を 1% として、広告の効果はあった(= 来客数が増えた)と言えるか。

帰無仮説・対立仮説の設定

来客数が増えたかどうかを知りたいので、

  • 帰無仮説 $H_0$:宣伝後の1日の平均来客数 $\lambda = 15$(広告の効果なし)
  • 対立仮説 $H_1$:宣伝後の1日の平均来客数 $\lambda \gt 15$(広告の効果あり)

とする片側検定を行う。

検定統計量の選定

1日あたりの来客数はポアソン分布に従うので、

\[z = \cfrac{\bar{x}-\lambda}{\sqrt{\lambda/n}} \sim N(0, 1)\]

これを検定統計量に用いる。

棄却域の計算

有意水準 $\alpha = 0.01$ であるから、$z_{0.01} \lt z$ であれば帰無仮説は棄却される。
標準正規分布の上側 1% 点 $z_{0.01} = 2.326$ より、帰無仮説 $H_0$ の棄却域は

\[2.326 \lt z\]

検定統計量の計算

\[\bar{x} = 17.2\] \[n = 30\]

であるから、帰無仮説 $\lambda=15$ が正しいと仮定すると、

\[t = \cfrac{20-17.2}{\sqrt{17.2/30}} \simeq 3.70\]

これは棄却域に含まれるので、帰無仮説 $H_0$ は棄却される。

結論

宣伝により来客数が有意に増加したと言える。

母平均の差の検定

独立2群・等分散:Student の t 検定

【問題設定】

  • 前提
    • 2つの母集団が 正規分布 に従い、互いに独立 している
    • 2つの母集団の 分散は等しい
  • 調べたいこと
    • 2つの母集団の母平均に有意差があるか否か?

理論

以下の定理により、

  • 母分散 $\sigma$ を式に含まない
  • 母平均 $\mu_A, \mu_B$ の差を含む
  • t 分布に従う

検定統計量 $t$ を得ることができる。
これを用いて $t$ 検定を行う。

【定理】

2つの母集団 A, B が 正規分布 に従い、互いに独立 しており、かつ A, B の 母分散が等しい 時、

  • $n_A, n_B$:母集団 A, B の標本数
  • $\mu_A, \mu_B$:母集団 A, B の母平均
  • $\sigma^2$:母集団 A, B の母分散
  • $\bar{x}_A, \bar{x}_B$:母集団 A, B の標本平均
  • $s_A^2, s_B^2$:母集団 A, B の標本不偏分散

とすると、以下で定義される統計量 $t$ は自由度 $n_A + n_B -2$ の $t$ 分布に従う。

\[t := \cfrac{(\bar{x}_A - \bar{x}_B) - (\mu_A-\mu_B)}{\sqrt{s^2 \left( \cfrac{1}{n_A}+\cfrac{1}{n_B} \right)}}\] \[s^2 := \cfrac{s_A^2(n_A-1) + s_B^2(n_B-1)}{(n_A-1) + (n_B-1)}\]

【証明】

仮定より、グループ A の標本 $x_{Ai}\ (i = 1, \cdots, n_A)$、グループ B の標本 $x_{Bi}\ (i = 1, \cdots, n_B)$ について

\[\begin{eqnarray} x_{Ai} &\sim N(\mu_A, \sigma^2) \\ x_{Bi} &\sim N(\mu_B, \sigma^2) \end{eqnarray}\]

が成り立つ。よって

\[\begin{eqnarray} \bar{x}_A &\sim N(\mu_A, \sigma^2/n_A) \\ \bar{x}_B &\sim N(\mu_B, \sigma^2/n_B) \end{eqnarray}\]

これらから $\mu_A, \mu_B$ を引いて $\sigma$ で割ると、

\[\begin{eqnarray} \cfrac{\bar{x}_A-\mu_A}{\sigma} &\sim N(0, 1/n_A) \\ \cfrac{\bar{x}_B-\mu_B}{\sigma} &\sim N(0, 1/n_B) \end{eqnarray}\]

これらの差を取ると、

\[\cfrac{\bar{x}_A-\mu_A}{\sigma} - \cfrac{\bar{x}_B-\mu_B}{\sigma} = \cfrac{(\bar{x}_A-\bar{x}_B)-(\mu_A-\mu_B)}{\sigma} \sim N\left( 0, \cfrac{1}{n_A}+\cfrac{1}{n_B} \right)\]

標準化して、

\[\cfrac{ (\bar{x}_A-\bar{x}_B)-(\mu_A-\mu_B) }{ \sigma \sqrt{\cfrac{1}{n_A}+\cfrac{1}{n_B}} } \sim N(0, 1) \qquad\qquad (1)\]

次に、正規分布に従う確率変数の標本不偏分散とカイ二乗分布の関係(cf. カイ二乗分布)から、

\[\begin{eqnarray} \cfrac{(n_A-1)s_A^2}{\sigma^2} &\sim \chi^2 (n_A-1) \\ \cfrac{(n_B-1)s_B^2}{\sigma^2} &\sim \chi^2 (n_B-1) \end{eqnarray}\]

これらの和を取ると、カイ二乗分布の和の再生性から、

\[\cfrac{(n_A-1)s_A^2}{\sigma^2} + \cfrac{(n_B-1)s_B^2}{\sigma^2} \sim \chi^2 ((n_A-1)+(n_B-1))\]

整理して、

\[\cfrac{(n_A-1)s_A^2 + (n_B-1)s_B^2}{\sigma^2} \sim \chi^2 (n_A+n_B-2) \qquad\qquad (2)\]

以上により、標準正規分布に従う変数 $(1)$ と自由度 $n_A+n_B-2$ のカイ二乗分布に従う変数 $(2)$ が得られた。
$(1)/\sqrt{(2)/(n_A+n_B-2)}$ の計算により、自由度 $n_A+n_B-2$ の t 分布に従う変数 $t$ を得る:

\[\begin{eqnarray} t &:=& \cfrac{ (\bar{x}_A-\bar{x}_B)-(\mu_A-\mu_B) }{ \sigma \sqrt{\cfrac{1}{n_A}+\cfrac{1}{n_B}} \sqrt{\cfrac{(n_A-1)s_A^2 + (n_B-1)s_B^2}{(n_A+n_B-2)\sigma^2}} } \\ &=& \cfrac{(\bar{x}_A - \bar{x}_B) - (\mu_A-\mu_B)}{\sqrt{s^2 \left( \cfrac{1}{n_A}+\cfrac{1}{n_B} \right)}} \sim t(n_A+n_B-2) \end{eqnarray}\]

ただし、

\[s^2 := \cfrac{s_A^2(n_A-1) + s_B^2(n_B-1)}{(n_A-1) + (n_B-1)}\]

具体例

全国的に実施された数学の学力試験に関して、その点数を A 県・B 県からランダムに10人分ずつ抽出すると、結果は以下の通りだった。

A県: 57, 44, 68, 34, 46, 42, 49, 57, 65, 78
B県: 49, 56, 48, 69, 65, 64, 81, 63, 60, 74

A 県・B 県の試験の点数はともに正規分布に従い、A 県と B 県では分散が等しいと仮定する。
有意水準を5%として、A 県・B 県の今回の数学の試験結果に有意差があると言えるか?

帰無仮説・対立仮説の設定

  • 帰無仮説 $H_0$:A 県・B 県の間で平均点に差はない
  • 対立仮説 $H_1$:A 県・B 県の間で平均点に差がある

検定統計量の選定

  • $n_A, n_B$:A 県・B 県の標本数
  • $\bar{x}_A, \bar{x}_B$:A 県・B 県の点数の標本平均
  • $s_A^2, s_B^2$:A 県・B 県の点数の標本不偏分散

とすると、$t$ 値

\[t = \cfrac{(\bar{x}_A - \bar{x}_B) - (\mu_A-\mu_B)}{\sqrt{s^2 \left( \cfrac{1}{n_A}+\cfrac{1}{n_B} \right)}}\] \[s^2 = \cfrac{s_A^2(n_A-1) + s_B^2(n_B-1)}{(n_A-1) + (n_B-1)}\]

は自由度 $n_A + n_B -2 = 18$ の $t$ 分布に従う。
これを検定量として用いる。

棄却域の計算

有意水準 $\alpha = 0.05$ なので、$t$ が t 分布の下側2.5%点 $t_{0.975}$ と上側2.5%点 $t_{0.025}$ との間にあれば、帰無仮説 $H_0$ は妥当と言える。
自由度18の t 分布表より $t_{0.025} = 2.101,\ t_{0.975} = -t_{0.025} = -2.101$ と求まるので、帰無仮説 $H_0$ の棄却域は

\[t \le -2.101,\ 2.101 \le t\]

検定統計量の計算

\[\begin{eqnarray} \bar{x}_A &=& \cfrac{1}{10} \sum_{i=1}^{10} x_{Ai} = 54.0 \\ \bar{x}_B &=& \cfrac{1}{10} \sum_{i=1}^{10} x_{Bi} = 62.9 \\ s_A^2 &=& \cfrac{1}{10-1} \sum_{i=1}^{10} (x_{Ai}-\bar{x}_A)^2 = 182.7 \\ s_B^2 &=& \cfrac{1}{10-1} \sum_{i=1}^{10} (x_{Bi}-\bar{x}_B)^2 = 107.2 \\ s^2 &=& \cfrac{182.7(10-1) + 107.2(10-1)}{(10-1) + (10-1)} = 145.0 \end{eqnarray}\]

であるから、帰無仮説が正しい($\mu_A = \mu_B$)とき、

\[t = \cfrac{(54.0-62.9)-0}{\sqrt{145.0 \left( \cfrac{1}{10}+\cfrac{1}{10} \right)}} \simeq -1.65\]

これは棄却域に含まれないので、帰無仮説 $H_0$ は棄却されない。

結論

A 県・B 県の間で点数に有意な差があるとは言えない。

独立2群・異分散:Welch の t 検定

【問題設定】

  • 前提
    • 2つの母集団が 正規分布 に従い、互いに独立 している
    • 2つの母集団の 分散が等しいとは限らない
  • 調べたいこと
    • 2つの母集団の母平均に有意差があるか否か?

理論

検定統計量

\[t := \cfrac{(\bar{x}_A-\bar{x}_B) - (\mu_A - \mu_B)}{\sqrt{\cfrac{s_A^2}{n_A}+\cfrac{s_B^2}{n_B}}}\]

が近似的に自由度

\[\nu \approx \cfrac{ \left( \cfrac{s_A^2}{n_A} + \cfrac{s_B^2}{n_B} \right)^2 }{ \cfrac{(s_A^2/n_A)^2}{n_A-1} + \cfrac{(s_B^2/n_B)^2}{n_B-1} }\]

の t 分布に従うことを利用して、t 検定を行う。

(出典)B. L. Welch, The significance of the difference between two means when the population variances are unequal, Biometrika 29, 350-362 (1938)

具体例

試験前1習慣の勉強時間の長さによりグループ分けしたグループ A(11人)とグループ B(8人)の数学の試験の点数は以下の通りだった。

A: 73, 94, 89, 92, 49, 28, 99, 75, 9, 79, 31
B: 33, 22, 43, 30, 33, 63, 46, 57, 25

グループ A・B の点数はそれぞれ正規分布に従うと仮定する。
有意水準を5%として、グループ A・B の平均点に有意差があると言えるか?

帰無仮説・対立仮説の設定

  • 帰無仮説 $H_0$:グループ A・B の間で平均点に差はない
  • 対立仮説 $H_1$:グループ A・B の間で平均点に差がある

検定統計量の選定

  • $n_A, n_B$:A・B の人数
  • $\bar{x}_A, \bar{x}_B$:A・B の点数の標本平均
  • $s_A^2, s_B^2$:A・B の点数の標本不偏分散

とすると、$t$ 値

\[t = \cfrac{(\bar{x}_A-\bar{x}_B) - (\mu_A - \mu_B)}{\sqrt{\cfrac{s_A^2}{n_A}+\cfrac{s_B^2}{n_B}}}\]

は自由度

\[\nu \approx \cfrac{ \left( \cfrac{s_A^2}{n_A} + \cfrac{s_B^2}{n_B} \right)^2 }{ \cfrac{(s_A^2/n_A)^2}{n_A-1} + \cfrac{(s_B^2/n_B)^2}{n_B-1} } \simeq 14.57 \simeq 15\]

の $t$ 分布に従う。

これを検定量として用いる。

棄却域の計算

有意水準 $\alpha = 0.05$ なので、$t$ が t 分布の下側2.5%点 $t_{0.975}$ と上側2.5%点 $t_{0.025}$ との間にあれば、帰無仮説 $H_0$ は妥当と言える。
自由度15の t 分布表より $t_{0.025} = 2.131,\ t_{0.975} = -t_{0.025} = -2.131$ と求まるので、帰無仮説 $H_0$ の棄却域は

\[t \le -2.131,\ 2.131 \le t\]

検定統計量の計算

\[\begin{eqnarray} \bar{x}_A &=& \cfrac{1}{10} \sum_{i=1}^{10} x_{Ai} = 65.3 \\ \bar{x}_B &=& \cfrac{1}{10} \sum_{i=1}^{10} x_{Bi} = 39.1 \\ s_A^2 &=& \cfrac{1}{10-1} \sum_{i=1}^{10} (x_{Ai}-\bar{x}_A)^2 = 957.8 \\ s_B^2 &=& \cfrac{1}{10-1} \sum_{i=1}^{10} (x_{Bi}-\bar{x}_B)^2 = 200.4 \end{eqnarray}\]

であるから、帰無仮説が正しい($\mu_A = \mu_B$)とき、

\[t = \cfrac{(65.3-39.1)-0}{\sqrt{\cfrac{957.8}{11}+\cfrac{200.4}{9}}} \simeq 2.51\]

これは棄却域に含まれるので、帰無仮説 $H_0$ は棄却され、対立仮説 $H_1$ が採択される。

結論

グループ A・B の間で平均点に有意な差があると言える。

関連2群

【問題設定】

  • 前提
    • 2つの母集団 A, B が 正規分布 に従う
    • A の標本と B の標本が1対1で対応している
  • 調べたいこと
    • 2つの母集団の母平均に有意差があるか否か?

理論

グループ A の標本 $x_{A1}, \cdots, x_{An}$ がそれぞれ、グループ B の標本 $x_{B1}, \cdots, x_{Bn}$ と対応している場合、$x_{A1}-x_{B1}, \cdots, x_{An}-x_{Bn}$ を確率変数 $Y := X_A-X_B$ の標本とみなせば、

  • 帰無仮説 $H_0$:$Y$ の平均値が0
  • 対立仮説 $H_1$:$Y$ の平均値が0でない

という1変数の t 検定に落とし込める。

具体例

ある学生5人の数学の試験の成績について、前期試験(A)と後期試験(B)で有意な差があったかどうかを調べたい。

この5人の前期試験・後期試験の成績は以下の通りであった。

Student ID:  1   2   3   4   5
         A: 63, 75, 72, 67, 71
         B: 82, 70, 78, 81, 79

A も B も、成績は正規分布に従うと仮定する。
有意水準を5%として、前期試験と後期試験で、学生たちの成績に有意な差があったと言えるか?

帰無仮説・対立仮説の設定

  • 帰無仮説 $H_0$:A, B の間で成績に変化はない($Y$ の平均値がゼロ)
  • 対立仮説 $H_1$:A, B の間で成績に変化がある($Y$ の平均値がゼロでない)

検定統計量の選定

  • $n$:学生の人数(標本数)
  • $\bar{y}$:$Y$ の標本平均
  • $s^2$:$Y$ の標本不偏分散
  • $\mu$:$Y$ の母分散

とすると、$t$ 値

\[t = \cfrac{\bar{y} - \mu}{\sqrt{s^2/n}}\]

は自由度 $n-1 = 4$ の $t$ 分布に従う。
これを検定量として用いる。

棄却域の計算

有意水準 $\alpha = 0.05$ の両側検定なので、$t$ が t 分布の下側2.5%点 $t_{0.975}$ と上側2.5%点 $t_{0.025}$ との間にあれば、帰無仮説 $H_0$ は妥当と言える。
自由度4の t 分布表より $t_{0.025} = 2.776,\ t_{0.975} = -t_{0.025} = -2.776$ と求まるので、帰無仮説 $H_0$ の棄却域は

\[t \le -2.776,\ 2.776 \le t\]

検定統計量の計算

\[\begin{eqnarray} \bar{y} &=& \cfrac{1}{5} \sum_{i=1}^{5} y_i = 8.4 \\ s^2 &=& \cfrac{1}{5-1} \sum_{i=1}^{5} (y_i-\bar{y})^2 = 82.3 \end{eqnarray}\]

であるから、帰無仮説が正しい($\mu = 0$)とき、

\[t = \cfrac{8.4-0}{\sqrt{82.3/5}} \simeq -2.07\]

これは棄却域に含まれないので、帰無仮説 $H_0$ は棄却されない。

結論

前期試験と後期試験の間で点数に有意な差があったとは言えない。